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東京地方裁判所 昭和35年(行)29号 判決 1965年2月24日

原告 塩沢進午

被告 国

訴訟代理人 片山邦宏 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

1  原告の求める裁判。

「被告は原告に対し、金七、五三万一、〇〇〇円及びこれに対する昭和三五年五月二日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする」との判決。

2  被告の求める裁判。

主文第一項同旨の判決。

二、請求原因及び被告の主張に対する反駁。

1  原告は昭和三一年五月頃から外国製乗用自動車の売買を業としているものであるが、昭和三四年四月一一日から輸入関税の引き上げが予定されていたので同月六日、東京税関業務部輸入課係長白崎岩雄に対し、同月一〇日以前に外車の輸入手続を申告しても許可が得られることを確めた上、同日、訴外在日米空軍軍人ノーブル・J・マツクスウエルより一九五七年式キヤデイラツク(機関番号五七六〇〇一二八八三号、大型乗用自動車)一台を、同月七日、訴外在日米空軍軍人ジエームズ・L・レニーより一九五七年式キヤデイラツク(機関番号五七六〇〇〇八〇五一号大型乗用自動車)一台を、それぞれ買い受ける予約をし、右各売主に予納証拠金として、それぞれ金七二万円を支払い、即日右二台の外国製自動車(以下、外車という。)を東京税関保税倉庫に搬入し、翌日、係員立会の下に右搬入保管の許可を得たうえ、これを同所に保管した。

2  そこで原告は同月八日東京税関に対し右外車の輸入申告をしたところ、白崎岩雄係長からただちに口頭でその受理を拒否されたので、翌九日、重ねて右申告の受理を請求したが白崎は右申告が後に述べるように適法なものであるにもかかわらず、十分な調査検討もしないで漫然とこれを拒否したばかりでなく、かえつて、原告に外国為替管理法違反の疑いがあり告発の準備をするためと称し、強いて右関係書類を領置した。右書類は昭和三四年四月二八日返還されたので、原告はただちに東京税関に対し同年四月九日に遡及して輸入申告を受理することを請求したところ、なおこれを拒否された。ついで大蔵省主税局税関部業務課に対して右受理を上申したのであるが、東京税関から同年八月二一日付をもつて右の申告を拒否する旨の決定を受けたので、さらに同年九月二一日付をもつて同税関長に対し異議の申立をしたところ、同年一〇月二〇日、同税関長よりこれを棄却する旨の決定を受けた。

3  しかしながら、原告の右の輸入申告は適法であり、東京税関の受理の拒否は違法である。すなわち、

(イ)  本件申告にかかる外車は、前記のとおり税関吏立会の許可の下に保税地域に搬入されたものであつて、外国に貨物が存在するものでも、運送途上にあるものでもないから、まさに申告時においてすでに輸入の蓋然性が具体化し、許可を受ければただちに貨物を適法に引き取りうる状態にあつたものというべきである。なる程、前記ジエームズ・L・レニー及びノーブル・J・マツクスウエルがいずれも外国為替管理法に規定する非居住者であること、右ジエームズ・Lより買受の外車は昭和三四年四月一四日、ノーブル・Jより買受の外車は同月一五日に至つて、初めて、それぞれ本邦において道路運送車両法第九条による新規登録を受けてから満一年の終期が到来するもので右期間経過後でなければ内国支払手段による支払いをすることができないこと、原告が右譲受対価の支払いにつき外国為替管理令第一一条第一項の許可を得ていなかつたこと及び米国軍人軍属らの所有する外車については、新規登録後一年を経過していないときは譲渡が許されなかつたことは、いずれもこれを争わないが原告が本件外車の譲受対価を支払うことができない状態にあつたということは、結局、輸入許可後の支払方法の問題にすぎず、そのため本件外車が輸入適状を欠くものとはいい得ない。

(ロ)  それそも輸入とは、関税法的には、外国貨物を一定の通関手続を経て内国貨物に転化する段階行為にすぎないものであつて、輸入すなわち譲受けではない。しかも、外国貨物については、輸入の許可がなければその譲受けが禁止せられているから当然譲受けすなわち売買行為は常に右輸入の申告とその許可以後に行なわるべきものである。けれども、本件の場合は事情が異なり、外車の売買行為が被告のいう外国為替管理令第二六条第一項、通産省告示第一一四号第二号に定める一年の期間を経過した後に行なわれる限り、その前提たるべき輸入申告及び許可は特段の規定がない以上、右一年の期間の経過前であつても、何ら違法ではないというべきである。

(ハ)  しかるに、東京税関は輸入、すなわち譲受け、輸入申告すなわち輸入許可と解し、譲受け対価の支払いの許可を有することをも輸入適状の要件に含ませ、しかも、かような意味における輸入適状を輸入申告の条件としているが、前記のとおり、申告、許可、譲受けはおのおの性格を異にし、時間的な差異もあるのであつて、右の意味における輸入適状を輸入申告時の条件とすべき合理的理由も法的根拠もない。ただ実際問題として輸入の許可があつても譲受対価の支払いをなし得なければ履行不能等困難な問題を生ずるので、右の意味における輸入適状は輸入許可時までに具備することを要し、かつこれをもつて十分というべきである。

(ニ)  ところで、事実上、許可は申告と同時になされるものではなく、通常、東京税関おいては申告後許可決定があるまでには少なくとも一週間ないし一〇日の日時を要する。現に通関手続には、申告後、物件の検査、関税の賦課、関税の徴収、輸入許可の四段階を必要とするものであり、かつ中間手続である納税についてみるも徴収令書にその発行後一五日以内に納付すべきものとされている事実から推定しても、法令自身輸入申告から許可までの日数はおよそ一五日間以上を予定しているものと解すべきところ、本件外車の新規登録後一年の期間満了の期日は前記のとおり、それぞれ昭和三四年四月一四日及び同月一五日であり、原告が輸入申告をした日はその五日ないし六日前の同月九日であるから、前記申告後許可までの所要日数を考えれば、原告は、右輸入が許可されるまでには、右物件を適法に譲り受けられる状態、すなわち前記の意味における輸入適状を具備するに至り得たはずである。

(ホ)  なお、原告が本件外車につき予約証拠金としてそれぞれ金七二万円を支払つたことは何ら違法ではない。原告はオプシヨン契約で本件外車を予約したものであるが、日米合同委員会会議の取り決めと米国極東軍回章で公示されたものとして、日米人間のオプシヨンは新規登録後一年未満車の売買禁止に抵触せず、合法的なものとして確認された。すなわち、同回章によれば、このオプシヨン契約は右登録後六カ月を経過した外車についてはすべて許されるのである。

4  以上のとおり、原告の本件輸入申告は適法であるのに、東京税関白崎係長及び東京税関長が故意または過失によつて法令の解釈を誤まり、原告の輸入申告を不適法としてその受理を拒否した結果、原告は次のとおり損害を受けた。

(イ)  証拠金の没収 金一、四三万一、〇〇〇円

東京税関によつて本件輸入申告の受理を拒否されたため、右オプシヨン契約の期間が満了し、契約が解約されたため、証拠金はいずれも没収された。もつとも、右のうちマツクスウエルからは金一四万四、〇〇〇円の返還を受けたが、訴外大塚嘉次に車両仲介料として金一〇万円、右解約から昭和三四年八月一五日保税倉庫より右車両を搬出してマツクスウエルに返還するまでに要した保税倉庫料金三万五、〇〇〇円をそれぞれ支払つたため、差引金九、〇〇〇円の利益を得たにすぎない。そして、前記東京税関白崎岩雄は右オプシヨン契約の期間満了日が昭和三四年四月末日であること、この期間の徒過とともに、右予約証拠金が没収されることを十分知つていたものである。

被告は再度の輸入申告の余地があつたと主張するが、前記のとおり、白崎係長から外国為替管理法違反の容疑があると告知され、オプシヨン契約書の原本まで領置されている事情のもとにおいては、再度の許可申請はできないものと考えるのが常識であり、またオプシヨン契約書や許可申請書に必要な譲渡人の署名を改めて得ることは、事実上不可能であつた。

(ロ)  本件外車を転売して得べかりし利益 二、七〇万円。

原告がこのような純利益を得ることができることは原告より白崎係長に対し口頭をもつて予め知らせておいたのみならず、同係長としても、原告が自動車売買業を営む商人であることは十分熟知しているところであるから、このことは当然予想し得たはずである。

(ハ)  廃業による純利益の喪失 金二、四〇万円。

右輸入申告不受理により本件契約を解約されたため、原告は信用を失墜し、一年間廃業のやむなきに至つた。被告主張のように廃業届が昭和三四年一二月四日に提出されたこと、原告が昭和三五年五月七日に右営業を再開したことは認めるが右廃業届は事実上の廃業より約半年遅れたものである。

(ニ)  廃業に対する慰藉料 金一、〇〇万円。

原告は、昭和二八年大学を卒業後、ただちに自動車売買業に携わつて来たものであるが、右廃業により長年築き上げて来た地位と信用とを一挙に失墜し、多大の精神的損害を受けた。したがつて、被告は右精神的損害を賠償する義務がある。

5  仮りに、右輸入申告の受理拒否が適法であるとしても、原告は、白崎岩雄係長の職務上の義務違反により右に述べたような損害を受けた。

すなわち、原告は前述のように昭和三四年四月六日午前一〇時ごろ、右白崎に対し、電話で本件のような外車の輸入申告が適法に受理されるかどうかについて照会したところ、右白崎より受理すべき旨の回答を得たので、原告は右回答どおり本件外車の輸入申告が適法に受理されるものと信じ、同日夕刻及び翌七日に本件二台の外車につきオプシヨン契約を締結し、即日、保証金の支払いをした。

右はまつたく右白崎係長の誤まつた指導に基因するもので、同人の右行為は国家公務員として法令に従い職務を適正になすべき義務に違背した過失による違法行為というべきである。

6  よつて、原告は被告に対し、合計金七、五三万一、〇〇〇円の損害賠償及びこれに対する右不法行為の後である昭和三五年五月二日から右支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告の答弁及び主張。

1  請求原因第一項の事実中、輸入申告が受理されることを確めたとの点を否認し、その余の事実は認める。第二項中白崎岩雄係長が原告の輸入申告の関係書類を告発準備のためと称して、強いて領置したこと、右申告が適法で白崎係長がこれを十分な調査検討もしないで漫然拒否したとの点は否認するがその余の事実は認める。第三、第四項は、いずれも争う。

2  本件輸入申告は次の理由により不適法である。すなわち、

(イ)  輸入の申告は、申告時においてすでに輸入(譲受)の蓋然性が具体化し、許可を受ければただちに貨物を適法に引取りうる状態(輸入適状)において行なわれることを要し、この客観的状態を備えてはじめて申告の利益があるものということができる。

(ロ)  ところが、本件外車の売主たるジエームス・L・レニー及びノーブル・J・マツクスウエルはいずれも外国為替管理法にいわゆる非居住者に該当するから、右外車の譲受けにおける対価の支払いについては、外国為替管理令第一一条第一項により主務大臣の許可を受けるか、又は同令第二六条第一項の規定に基づく昭和二七年五月二〇日付通産省告示第一一四号により譲受けの目的物たる外車が本邦において道路運送車両法第九条の規定による新規登録を受けてから一年経過後でなければ譲受対価の内国支払手段による支払いをすることができない。したがつて、同令第一一条第一項の許可なくして右一年経過前になされた輸入申告は、未だその譲受けについて内国支払手段による対価の支払いをすることができず、取引通念上輸入の許可があつでもすぐには当該外車を適法に引き取り得ない状態において行なわれたものというべきである。

(ハ)  しかるに、右ジエームス・Lよりの一台は昭和三四年四月一四日、ノーブル・Jよりの一台は同月一五日に至つてそれぞれ右一年の終期が到来するものであり、かつ原告は右譲受対価の支払いにつき右管理令第一一条第一項の許可を得ていなかつたのであるから、本件輸入申告時である同年四月九日においては、未だ右貨物は輸入適状を具備していなかつた。

(ニ)  のみならず、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定第二六条によつて設置された日米合同委員会は駐留軍人等の私有外車は譲渡人が一年以上、日本国内で所有(道路運送車両法第九条による新規登録後一年を経過)したうえでなければ、非免税特権者に譲渡できない旨を取り決め、この趣旨に従い駐留軍では「自動車の転売に関する極東軍回章」によつて、その部内に対し右一年未満の間における譲渡を禁止し、違反行為に対しては罰則を定め、譲受人が陸運事務所への新規登録手続をするについては、あらかじめ憲兵隊の譲渡認証を得なければならないこととしている。そこで、右一年未満の間には適法な譲受、したがつてその引取もありえないところから、税関当局も右一年未満の間の譲受申告に対しては輸入適状にないものとして許可を与えない取り扱いをしているのである。

(ホ)  原告はオプシヨン契約の適法性を主張しているが日米合同委員会の取り決め及び米極東軍回章で認められたオプシヨンとは、免税特権者が免税外車を日本国内で新規登録後六カ月所有した後、非免税特権者に譲渡するに先だち、将来売買契約を締結するか否かの選択権を一定の約定期間買主に与えることを約し、これに対して権利の対価が支払われることを指し、売買契約自体ではない。したがつて、オプシヨンが適法に行なわれたかどうかは本件輸入申告の不適法なことを左右しない。オプシヨンに基づく輸入申告であつても、その申告が前記一年未満時になされた以上、その時点においては未だ輸入許可を受ければただちに貨物を適法に引き取りうる状態が具体化しているものではない。

(ヘ)  また、原告は輸入適状は輸入許可時までに具備すれば十分であるとしているが、関税は輸入申告時の法令により課税されるし、申告後許可に至るまでの期間の不同による不公平を避ける趣旨からも、現に輸入適状にあることが輸入申告の適法要件であると解すべきであつて、このことは明文の規定をまつまでもなく、法理上当然である。したがつて、右一年未満時における輸入申告はそれがたとえ申告から許可までの日時(通常それは二日ないし一週間)だけ右一年に満たないような申告であつても、不適法であることには変わりはなく、一年の期間満了の時に、初めて、輸入申告をすることができるものというべきである。

(ト)  よつて、原告の本件輸入申告は不適法であるから、この受理を拒否した東京税関の取り扱いは何ら違法ではない。

3  仮りに、本件輸入申告を拒否した取り扱いが違法であつたとしても東京税関長はそれが関税法の解釈上正しい取り扱いであると考えて行つたのであり、しかもそのように考えるのがあながち不合理でない以上、ただちに東京税関長に故意過失があるとすることはできない。

4  請求原因第五項中、白崎が申告を受理すべき旨回答をしたとの点は否認し、同人に職務上の義務違反があつたとの点は争う。その余の事実は認める。白崎は原告からの電話による問い合わせがあつた際「道路運送車両法第九条による新規登録後満一年を経過する前一週間くらいの外車であれば或いは申告が受理されるかもしれないが、最終的なことは正式に譲受申告書が提出されたときでなければいえない」との趣旨の回答をし、その後、上司とも協議の上、同日中に右のような輸入申告は受理できない旨原告に対し正式に回答した。しかるに、原告はこれを無視して、その主張のオプシヨン契約を締結したものである。

5  仮りに、右白崎が本件譲受申告を受理する旨誤つた回答をしたとしても、そのことと原告主張の損害との間には相当因果関係はない。すなわち、

(イ)  予約証拠金については、右白崎の言を信じてこれを支払つたとしても、必ずしも没収されるとは限らない。東京税関長は原告に対し、新規登録満一年経過後であれば右申告を受理することを告げ、かつ再申告を再三勧告したがこれに応じて原告が再申告すれば右証拠金は何ら没収されなかつたのである。

(ロ)  転売利益はかかる場合、通常生ずべき損害ではない。

(ハ)  営業廃止による損害及び慰藉料については、たとえ原告が右白崎の言を信じて取引関係に入つたとしても、その結果、通常原告が営業を廃止するのやむなきに至るとはいい得ないのみならず、原告が営業を廃止したのは、昭和三四年一二月四日であり、昭和三五年五月七日には同一営業を再開しているから廃業期間は約六ケ月にすぎない。

四、証拠<省略>

理由

昭和三五年六月二二日以前において、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条の規定に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和二七年法律第一一二号。現行題名日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律)第六条第五号により関税の免除をうけた外車を、日本国内において、合衆国軍隊の構成員等からそれ以外の者が譲受けをしようとするときは、同法第一二条第一項の規定により当該譲受けが輸入とみなされ、所定の手続により税関に輸入(譲受)の申告をし、関税を納付した上、その許可を受けなくてはならない(関税法第六七条、第七二条)ところ、原告がその主張の各日に、その主張の外車二台を主張の在日米軍軍人から買い受ける予約をし、かつ、右各外車を東京税関保税倉庫に搬入し、昭和三四年四月八日同税関に対し、右外車の輸入申告をしたこと、同税関業務部輸入課白崎岩雄係長が右輸入申告の受理を拒否したので、原告が同月九日重ねて申告の受理を請求したが同税関においては、同年八月二一日原告に対し右の申告を拒否する処分をしたことはいずれも当事者間に争いがない。ところで輸入の許可は、関税の賦課及び徴収等の適正な処理を図るための手続であり、関税は、貨物の輸入という事実を課税要件として賦課するものであるから、輸入の申告は、申告時において、すでに輸入の蓋然性が具体化し、輸入許可があれば、ただちに貨物を適法に引き取ることのできる状態(輸入適状)、すなわち、輸入可能な貨物(例えば、輸入禁製品((関税定率法第二一条))でないこと。)について輸入に必要な所定の手続を経た(例えば、外国為替及び外国貿易管理法第五二条の輸入の承認等)状態においてされなくてはならないことは、制度の性質から当然であつて、関税法第五条が、課税の公平の見地から、関税は輸入申告の日において適用される法令により課する旨定めていること、同法第七〇条が輸入許可の条件として、税関に対し他の法令により輸入に関する許可承認等をうけていることの証明を要求しているのも、右のことを前提としていることは明らかである。輸入申告が事前申告でなくてはならないことは、右のことと何ら矛盾するものではなく、申告時において輸入の許されない貨物について輸入申告をする利益のないこともまた極めて明らかである。しかるに、合衆国軍隊の構成員等から、それ以外の者が本邦において道路運送車両法第九条の規定による新規登録をうけてから一年を経過していない外車を譲り受けるには、その対価の支払いについて外国為替管理令第一一条第一項の許可を要するところ(外国為替管理令により、通商産業大臣の許可を受けないで支払をすることができる場合指定第二号((昭和二七年五月二〇日通商産業省告示第一一四号)))、原告が買い受ける予約をした本件二台の外車は、それぞれ原告の輸入申告の後である昭和三四年四月一四日、同月一五日を経過することによつて道路運送車両法第九条の規定による新規登録後一年を経過するものであること、原告が右の譲受けの対価の支払いについて外国為替管理令第一一条第一項の許可を得ていないことは、いずれも原告の自認するところであるから、本件外車が輸入申告時においては輸入適状になかつたことが明らかである。そればかりでなく、日米合同委員会によつて駐留軍人等の私有外車は、譲渡人が一年以上日本国内で所有した上でなければこれを非免税特権者に譲渡できない旨取り決められていることも当事者間に争いがないのであるから、原告の本件輸入申告は不適法であつて、これを拒否した東京税関の処分に何らの違法の点はない。

原告本人尋問の結果によると、従来本件の輸入申告のような場合も事前申告として許されていたかのような供述があるが、成立に争いのない甲第一三号証の一ないし四によつても、関税定率法第一六条第一項第四号、第二項、同法施行令第二八条により外交官の輸入した免税外車を原告が二年以内に譲り受け、輸入申告をするについて、二年経過前に内国支払手段による支払いの許可を受けていることが認められるだけで、右のような免税外車を輸入後二年以内に用途外に供する場合には関税が徴収されることのあるほか、譲渡そのものが禁止されているわけではないのであるから、外国為替管理令第一一条による支払許可が二年経過前にされることは当然であつて、(右各号証によればむしろ、円貨による支払許可があつた後、すなわち、輸入適状となつた後に輸入申告が行なわれていることが明らかである。)、これと本件とは場合が異なるし、証人白崎岩雄の証言によると、東京税関においては、本件のような輸入申告の受理がなされたことはないと認められるから、右の供述は容易に信用できず、他に、同税関において右に述べたところと異なる解釈の下に異なる取り扱いをしていたことを認めるに足りる証拠はない。

原告は、本件外車の売買予約は、オプシヨン契約として適法になしえたものであるから、輸入適状にあつた旨主張するけれども、仮りに、原告主張のような多額の証拠金を支払うオプシヨン契約が適法なものとして認められるとしても、成立に争いのない甲第七号証と原告本人尋問の結果により府中の駐留米軍法務局の発行している書式と同じものと認められる同第八号証の一、二によるとオプシヨン契約とは、免税特権者が免税外車を日本国内で新規登録後六カ月所有した後、非免税特権者に譲渡するに先だち、将来売買契約を締結するかどうかの選択権を一定の約定期間買主に与えることを約し、これに対して、右の権利の対価が支払われるような約定を指すものと認められ、免税外車の譲渡が新規登録後一年を経過しなければ許されないため、一年経過前に将来の取得を確保するため認められた制度ではあるとしても、これによつて、右期間前に免税外車の譲渡そのものが許されるとする趣旨のものでないからオプシヨン契約が適法に許されるということによつては、ただちに、輸入適状にあることとなるものではない。

なお、原告は、東京税関業務部輸入課係長白崎岩雄において原告の問い合わせに対し、本件のような外車の輸入申告が適法に受理される旨の誤つた解答をしたため、損害を被つた旨主張するが前記白崎岩雄の証言によると、同人は昭和三四年四月六日原告からの電話による問い合わせに対し、道路運送車両法第九条による新規登録後満一年を経過する前一週間位の外車であれば、申告が受理されるかも知れないが、最終的なことは正式に譲受申告書が提出されたときでなければいえない旨の回答をし、その後、上司と相談の上同日中に受理できない旨正式に回答をしているものと認められ、これに反する原告本人尋問の結果は、当裁判所の信用しないところであるし、他に、原告の右の主張事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、右原告本人尋問の結果によると、原告は昭和三四年四月一一日から課税価格が改正され外車についての関税が大幅に引き上げられることを予想し、新規登録後一年未満の本件外車について譲り受けを急ぐ余り、東京税関の係員に対し十分確めることもなく、事前申告として輸入申告が受理されるものと速断し、その主張の売買予約を締結したことをうかがうことができる。したがつて、原告の右の主張も理由がない。

以上のとおり、東京税関の処分、または、白崎岩雄の所為について何らの違法の点は認められないから、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 浜秀和 町田顕)

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